英語学習は英語回路の獲得ではない

英語回路ができると英語が話せると説明する教材がたくさんあります。私はなぜ英語脳とか英語回路のような説明が使われるのか理由を探るため典型的な英語回路を生成すると言う教材の宣伝文句を調べてみました。すると次のようなフレーズがありました。「あなたの脳内でリスニング耳ニューロンがグングンと伸びていくのがわかるでしょう。」英語を大量に聞くと脳の中でニューロンが伸びつながることにより、英語脳ができるかのように言っているのです。他の教材でもこれに近い表現が多く使われていました。この説明でニューロンが伸び英語回路ができると言いたいのかも知れませんが、この考えは大きな間違いです。

大きな間違いは、脳は電気回路のようにニューロンが直接つながるわけではありません。電気回路では、電気が流れる事で信号が伝えられますが、神経回路において神経細胞から神経細胞への電気信号は、Aが放出する神経伝達物質をBが受け取るという形で伝えられます。AとBがつながる事で覚えるのでなく、シナップスのAとBは物理的につながつ事はありません。

覚えると言う事はこの情報化学物質の量で決まるのでありシナップスがニョキニョキ伸びてつながるわけではありません。神経細胞のシナップスのつながりは大変いい加減なものなのです。覚えたはずの事が忘れてしまったり、忘れた事を思い出したするのはその脳の記憶の不安定さを表しています。英語回路が確立したのであれば覚えた単語を忘れたり、思い出せなかった単語を後から思い出したりできないのです。

脳細胞が発芽して可塑性を持つことは医学的に知られています。しかしその発芽のためにはかなりの日数がかかり、細胞がつながって記憶しているのではありません。記憶は幾つかの脳細胞と情報伝達物質により可能となります。脳の神経回路は電気回路とは違いお互いがつながって情報が流れるのではありません。脳細胞と脳細胞はつながる事は無く、その間の情報のやりとりをしているのは知られているだけでも100種類以上の情報伝達物質のやりとりで行われます。このように記憶は脳細胞の不連続な回路において行われます。また記憶とは幾つかの神経回路で外からの情報を写し取る事になります。

現実的にはシナップス間の電位的なつながりの増強維持された状態でLTP(長期増強)と呼ばれます。人間の記憶の厄介なのは、使われる回路が常に一定ではなくいろいろな回路が使い回しされるために、覚えた物の忘れたり、忘れた物を思い出したり、間違って覚えたりします。覚えたい事や、良く使う事が記憶に残り易い傾向にはありますが、記憶を消すのは意図的にできるものではありません。その記憶情報はある程度使うと覚える事ができ、その使い方により長く覚えていたり、直ぐに忘れたりします。

英語発音方法や音を覚えると言う事はこの情報伝達の化学物質の量で決まるのでありシナップスがニョキニョキ伸びてつながるわけではありません。我々は数秒間でも数分間でもかなりの事を覚えられますがこの時間にシナップスがニョキニョキ伸びてつながるはずはありません。ニューロンのシナップスが発芽して回路のつながりにより覚えるのなら、一つの単語を記憶するのに数時間から数日かかることになってしまいます。実際は臨界期を過ぎる頃からはシナップスの数は急速に減少していきます。しかしそれが記憶のメカニズムではありません。現在の大脳生理学ではシナップスの数は生後10ヶ月が最大で、その後は減少をつづけます。人間の学習は正しくはシナップスの増加ではなく、選択して減少させることなのです。

脳細胞ではニューロンとグリア細胞があり、大脳皮質のニューロンは減少していきますが、グリア細胞は年齢に関わらず増やす事ができます。この増殖するグリア細胞の役割は神経回路を形成して記憶させるのでなく、実は神経伝達物質のやりとりに強く関与しています。このように記憶することは、ニューロンの回路が完成するのでなく、神経伝達物質の促進があり、期間が長くなるとグリア細胞の増加を促し、記憶が促進されます。しかしグリア細胞が増えたからと言って、英語回路ができるわけでなく、グリア細胞が増殖する事により情報伝達物質が増えます。このためには学習初期の段階では同質のものを多量にこなす学習が効果的なのは脳科学的に見ても証明できます。

記憶をするためには脳の神経回路の接続を増やす事でなく、神経伝達物質を多く出させるようにする事です。またつながっておりませんので、覚えた事を忘れたり、ある時思い出したりします。学習において考えさせる事や反復や復習の効果が高いのはこのためなのです。そして記憶には多くの要因が働いており、英会話を学習してて楽しいとか、嬉しいとかの情感が大事なのも、情感により情報伝達物質の促進を高めるからなのです。

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